「歩合給」の賃金制度が、運送業で必要な理由

こんにちは。社会保険労務士・行政書士の浜田です。

今日は、社会保険労務士として、運送業で採用すべき「給与体系」について解説します。

そして、なぜ運送業で「歩合給」が有効なのかについて、触れていくことにします。

かなり長文になると思いますが、一通り読んでいただければ、御社で歩合給を採用すべきか否かはわかってくるかと思います。

まずは、会社の「部門別」で考えます

まずは、「ドライバー」の方とそれ以外の部署で働く方に分けて考えることが必要です。

ドライバー以外の方については、「歩合給」はなじまないことが多いからです。

そして、ドライバーについても、「長距離」「中距離」等で分けて考える必要があります。

例えば、長距離ドライバーについては「移動距離」が主な観点になると思いますが、近場で荷物を運ぶドライバーだと、「配達数」等が主な観点になるからです。

これら全ての働き方の人をまとめて考えてしまうと、「歩合給」を採用する場合に基準自体に無理が出てきてしまいます。

そもそも、何故「歩合給」を採用するのか?

ただ、大前提として考えなければならないこととして、

そもそも、何故「歩合給」にする必要があるのか?

ということです。

「歩合給」を採用する目的としては、「成果給」という考え方があります。

つまり、「働いた人には、働いただけ給与を支給してあげよう」ということです。

これは、逆に言えば、「怠けている人が得をするのを防ぐ」目的があります。

そういった意味で、「配達数」や「運行距離」といった基準(出来高)で給与に差を設けるといった歩合給の制度は、運送業で採用するのは極めて合理的だといえます。

ただし、単に「未払い残業代を減らしたい」「残業代を減らせる手法は、歩合給だと聞いた」というお話だけで、歩合給を導入するのは非常に危険です。

本当に導入するメリットが自社にあるのかどうか、をよく考える必要があります。

中には、歩合給ではない方が合理的に事業が行える運送事業の会社もあるからです。

だからこそ、この賃金制度になじむ人(働き方)等に対してのみ「歩合給」を採用すべきです。

※上記「怠けている人が得をするのを防ぐ」の話をすると、他の職種でも同じ話ではないのか?という理屈になるかと思いますが、それについては、歩合給を他の職種で導入した時の影響(デメリット)がさまざま出てくると考えます。それについては、後述します。


経営者から見た「歩合給」について

では、経営者として、歩合給を導入するために、いくつか検討すべきことをお話しします。

①ドライバーの働き方について

先ほど申し上げた事項と重複しますが、自社のドライバーがどういった働き方をしているかが大切です。

長距離ドライバーばかりの事業所様であれば、歩合給の導入を検討する余地は十分にあるでしょう。

では、中距離や近距離のドライバーはどうでしょうか?

「荷物の数」や「走行距離」で判断するのは本当に賢明でしょうか?

賢明だと思われる場合は、是非、導入を検討してみてください。

②損益分岐点について

導入を検討されるのであれば、「損益分岐点」をしっかりと分析しましょう。

歩合給はメリットばかりではない(メリットについては後述します)ことを知っておく必要があります。

例えば、売上が物凄く高い会社においては、固定給の方が会社にとってはメリットが大きいかもしれません。

何を言っているのかといいますと、歩合給は、先ほど申し上げたとおり、成果に対して支払いますので、単純に売上が上がりますと、それだけ従業員さんにお支払いする給与も増えるということです。

これが、固定給であれば、いくら売上が上がろうとも、割増賃金等がなければ、従業員さんにお支払いする給与は変わらないわけです。

損益分岐点とは、それを上回れば黒字、下回れば赤字となる分岐点をいうものですが、一般的に、歩合給の方が損益分岐点は下がります。要するに、「売上が上がらない=それだけ成果が上がっていない」わけですから、従業員さんにお支払いする給与を下げることができ、結果として赤字になりにくいといった構造になるということです。

ただし、これには注意が必要で、売上が高くなりますと、逆に歩合給が高くなっていきますから、それだけ利益が低下するというお話しになります。

③モチベーションについて

次に、従業員さんのモチベーションになりますが、歩合給については、やればやっただけもらえる賃金制度のため、どちらかというと「個人プレー」になりやすく、賃金もいわゆる「終身雇用」を前提とした賃金カーブにならないため、労働者の確保・定着に不利に働く可能性もあります。


時間外労働の割増賃金について

「歩合給」のお話をすると、このテーマに興味がある人が多いのかもしれませんが、まず最初に申し上げなければいけないのは、

歩合給であっても、時間外労働に対する割増賃金は必要

ということです。

これだけ聞くと、残念に思うかもしれませんが、次の話を見てみてください。

例えばですが、

・月の所定労働時間を160時間
・月の残業時間を40時間
・固定給、歩合給ともに40万円支給すると考えます。

そうした時に割増賃金の計算時に、下記の違いが出てきます。

【固定給の場合】

割増賃金額=時間当たり賃金単価×割増率×時間外労働時間数

時間当たり賃金単価=40(万円)÷160(時間)=2,500円

割増率=1.25

時間外労働時間数=40時間

なので、 

2,500×1.25×40=125,000円となります。

【(オール)歩合給の場合】

割増賃金額=時間当たり賃金単価×割増率×時間外労働時間数

時間当たり賃金単価=40(万円)÷200(時間)=2,000円

割増率=0.25

時間外労働時間数=40時間

なので、

2,000×0.25×40=20,000円となります。

つまり、差額が「105,000円」となっており、これが歩合給を採用すべき最大のメリットといえます。

これは、計算間違えでもなんでもなく、正しい計算方法を基にしております。

なぜ、割増率が「0.25」でいいかという話については、「1」になる部分は歩合、つまり成果による出来高払いで既に支払済みであるという考え方によります。


「保障給」の支払いは必要です

これまで、歩合給は成果給であることを話してきていますが、では売上が少なかった場合に、それに応じて歩合給を減らしていいのかと言いますと、注意するべき点があります。

それが「保障給」というものになります。

この「保障給」については、労働基準法にも明示があり、法第27条に

(出来高払制の保障給)
第二十七条 出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない。

とあることから、導入が必要であることが読み取れると思います。

そのため、売上がない時に、際限なく歩合給を減らせるかと言いますと、そうではないということになります。

オール歩合給は「違法」ではないのですか?

たまに、オール歩合給を「違法」と勘違いされている方がいらっしゃるのですが、何の法的根拠もありません。

そのため、オール歩合給は「合法」であって、決して違法ではありません。


「歩合給」をどのように採用するか

では、この歩合給ですが、実際の採用方法としては、主に下記の2点があります。

①オール歩合給

②固定給+歩合給の混合

①のオール歩合給における割増賃金額の計算方法については、先ほど述べたとおりです。
このオール歩合給を採用することこそが、未払い残業代を解消する手立てともいえます

②についても歩合給の部分について、基本的な考え方は変わらないです。

そのため、会社の事情に応じて、①にするか②にするかを決めていくのがいいと思います。
※固定給がベターであれば、固定給のみを採用するのももちろんありです。

年次有給休暇の取得には要注意です

②「固定給+歩合給」を採用している場合は、特にこの年次有給休暇に対する賃金の支払い方法について注意が必要です。

固定給部分については、通常の場合、有給休暇を取得する場合は、そのまま欠勤控除はなしで、支給すればいいだけなので、さほど大変ではありません。

しかし、上記の取り扱いの場合には、歩合給部分については計算されていないので、歩合給に関して別途計算した上で支払う必要がありますので、注意するようにしましょう。

計算方法としては、

出来高払制賃金の総額÷算定期間における総労働時間数×算定期間における1日平均所定労働時間数

となります。

「歩合給」が及ぼす影響について

最初の方に述べましたが、何故、運送業で「歩合給」が有効で、それ以外の業界では採用できないのかについて少し考察します。

少し難しい話になってしまうかもしれませんが、そもそも現代の日本における一般的な賃金制度は

「長期雇用を前提とした定期昇給」モデルだからです。

要するに、長く働けば、それだけ毎年給料が上がっていくというものです。

勘のいい方は、これだけ聞けば一般的な企業に歩合給が不向きなことがわかるでしょう。

歩合給については成果給であるから、やればやっただけもらえる賃金制度のため、どちらかというと個人プレーになりやすく、賃金もいわゆる「終身雇用」を前提とした賃金カーブにならないため、労働者の確保・定着に不利に働く可能性もあります。

と先ほど述べました。

つまり歩合給は、長期雇用を前提とした定期昇給モデルではないということです。

とは言え、当然ながら採用したドライバーさんには長期的に働いてほしいでしょうから、業界の慣習等も加味しながら、より魅力的な会社にし続けていく努力が必要だと思います。

累進歩合制度について(禁止)

いわゆる「累進歩合給」「トップ賞」といったものは、労働者の長時間労働やスピード違反を誘発するおそれがあるとして禁止されていますので、歩合給を運用する際は気を付ける必要があります。

※積算歩合給制は禁止されていません。

歩合給を運用する場合には、「就業規則」に規定するのがベターです

ある程度、方向性が固まって、いざ運用するといった時に、どうやって運用していくかということが非常に大切になってきます。

ベターなのは「就業規則」に規定することです。

就業規則の細かいお話しは、ここでは触れないですが、

就業規則に規定すれば、全従業員に適用できることになりますから、今後何かしら変更するケース等が生じた時に変更しやすいといった点がメリットとして挙げられます。

就業規則に規定をしなければ、個別に従業員ごとに合意をとっていく必要がありますので、今後も必要に応じて個別合意をしていくイメージになります。

ただ、いずれにしても、最初に歩合給を導入する際には、賃金制度そのものが変更になることから、「同意」自体は避けられないものと考えます。

歩合給を導入する際には、他の手当等の兼ね合いも含め、従業員さんに極力不利益にならないような制度設計をすることが肝要になります。

激変緩和措置を設けるべき

従業員さんに極力不利益にならないような仕組みとして、「激変緩和措置」を設けることをお勧めします。

激変緩和措置とは、今回のような歩合給を採用する際に、いきなり制度だけを導入してしまうと、これまでの給与水準を維持できない可能性があります(逆に、上回る可能性もあります)。

そういった時に、一定水準に到達しない時は、差額を補てんするといったものになります。

そして、この激変緩和措置を数年にわたって実施し、徐々に水準値を下げていくといった運用がベターです。

この激変緩和措置については、事務処理上、過度の負担にならないように設計することが大切です。

まとめ

いかがだったでしょうか?

運送業において「歩合給」を設けることで得られるメリット等について触れました。

「歩合給」を運用するのは、これまでの賃金制度を大きく変えることになりますので、従業員さんとしっかりと話し合いながら、運用していくことが肝要です。

その際に、激変緩和措置を設ける等して、極力不利益にならないような制度設計を心がけましょう。

当事務所でも、賃金制度の変更に関するサポートを行っています。

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